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〈141〉500冊の本と極上コーヒーを24時間楽しめる「珈琲貴族エジンバラ」

東京メトロ新宿三丁目駅のすぐ近く、新宿通りを挟んで映画館「新宿バルト9」の向かいにある「珈琲貴族エジンバラ」は24時間営業の喫茶店。1975年に歌舞伎町の靖国通り沿いで開業した老舗だ。まだ携帯電話がない昭和の時代には待ち合わせ場所として重宝され、店内の公衆電話が頻繁に鳴っては、店員が「○○さんはいらっしゃいますか?」と呼び出すのが日常だったという。

歌舞伎町の入居先の老朽化に伴い、2014年に現在の場所に移転。店の広さは約2倍となり、60席から130席に増えた(現在はコロナ感染予防のため、100席で営業)。全席に電源を設置し、無料Wi-Fiはもちろん、コピー機(有料)も完備。3時間に1回オーダーすればずっと居られるので、ここが毎日の仕事場になっている人も少なくないという。

〈141〉500冊の本と極上コーヒーを24時間楽しめる「珈琲貴族エジンバラ」

「店の広さが倍になり、テーブルにノートパソコンも広げやすくなりました。充電のニーズも昔以上に高まっていましたから、ちょうどいい時期に移転できたと思っています」

そう話すのは店長の西田恵美子さん(35)。20歳の時に旧店舗でアルバイトを始め、2年後に社員に。気づけば15年もこの店で働いている。

「お店にはいろんなお客様がいらっしゃいます。おいしいと思っているものとすてきだと思える場所を提供し、ありがとうと言われればそれが答え。ずっとこの店に受け継がれているクオリティーを崩したくないと思いながら働いています」

SF、ミステリー……レア本が大充実

もともと店に新聞や雑誌は常備していたが、移転したタイミングで、オーナーが「本棚を置きたい」と発案。店内の2カ所に本棚を設置した。「エジンバラ文庫」と名付けた。選書は神保町の「古書いろどり」が担当。得意分野であるSFとミステリーに加え、バルト9や寄席の末廣亭が近いことから映画や落語関連の本も揃(そろ)え、約500冊が並んでいる。

〈141〉500冊の本と極上コーヒーを24時間楽しめる「珈琲貴族エジンバラ」

雑誌『SFマガジン』のバックナンバーや、ハヤカワ?ミステリ文庫、ハヤカワ?ポケット?ミステリシリーズの充実ぶりは目を見張るものがある。自身も本好きだという副店長の八木橋千世さん(30)は、この棚を見た時、「ジャンルの潔い偏りっぷり」が逆にすごいと感じたという。

「誰もが手に取る本じゃないけど、コアなお客さんは、『こんなにレアな本があるんだ』と驚き、よろこんでくださっています」(八木橋さん)

本は自由に手に取ることができ、客席で読んでもいい。もちろん購入もできる。「古書いろどり」の店主?八島久幸さん(60)が月1回の頻度で店に赴き、補充などを行っている。

〈141〉500冊の本と極上コーヒーを24時間楽しめる「珈琲貴族エジンバラ」

「ジャンルは場所や店の雰囲気に合わせてこちらから提案しました。SFやミステリーはコンスタントに、映画や落語はまとめて売れることが多いですね。一回だけ、落語やミステリーの本が100冊以上ごっそり売れた時は驚きました」(八島さん)

サイホン抽出にこだわる理由

この店の最大のセールスポイントといえば、やはりコーヒー。オープンキッチンのカウンターには7台のサイホンがずらりと並び、ガラス越しにコーヒーが抽出される様子や香りを楽しむことができる。あえてサイホンにこだわるのには理由がある。

「豆の品質はもちろんですが、時間、豆の量、温度を守ることを徹底すれば、安定しておいしく淹(い)れることができます。また、なみなみと注いだコーヒーカップをトレーに載せて運ぶのは大変ですが、サイホンならお席まで素早く行き、お客さまの目の前で熱々の状態で注ぐことができます」(西田さん)

〈141〉500冊の本と極上コーヒーを24時間楽しめる「珈琲貴族エジンバラ」

サイホン用のガス台は特注品。7台のサイホンそれぞれにバーナーがついており、微妙な火加減が調整できる。また、他の作業もできるよう、台自体を広めに作ってもらっている。

「抽出の間、時間さえ守れば並行して他の作業ができるのもサイホンのいいところ。複数のオーダーをこなせるから、お客さまにもより早くお届けすることができるんです」(西田さん)

しばしカウンター内のスタッフの動きに目を向けると、サイホンの上部にコーヒーの粉をセットしたら、次はエスプレッソやフードの準備と無駄がない。テキパキとした動きでみるみるうちに注文の品を揃えていく様は、いつまでもながめていたくなる。動きが機敏なだけでなく、スマートな接客も印象的だ。特別なマニュアルがあるわけではなく、個人の判断に委ねられているという。

〈141〉500冊の本と極上コーヒーを24時間楽しめる「珈琲貴族エジンバラ」

「まず重視するのはサービスの正確性。『いらっしゃいませ』を『らっしゃいませー』などというように言葉を崩すのもご法度です」(西田さん)

「いらっしゃるお客様が幅広いので、自分の接客をどうしたらいいかを常に考えさせてくれる店です。私は8年目ですが、正解は見つかっておらず、知らないことだらけ。まだまだ工夫の余地はあるし、いいサービスを確認したくて働き続けているような感じです」(八木橋さん)

〈141〉500冊の本と極上コーヒーを24時間楽しめる「珈琲貴族エジンバラ」

副店長の八木橋千世さん

変わる景色、変わらぬサービス

先輩から後輩へと受け継がれたものは、マニュアルなき柔軟なサービスだけではない。店が提供するメニュー自体もそうだ。充実したコーヒー各種を筆頭に、スイーツも、人気のポテトグラタンやサンドイッチなどの軽食類も、長年変わらず受け継いできた味だ。

「ありがたいことに、もともとあるものが素晴らしいので変える必要がないし、むしろ何も変えないことにこだわっています。流行(はや)りモノのメニューは入れないし、定番だけを徹底して作るのみです」(西田さん)

店長になって4年目という西田さんは、常連客と、「ここに骨を埋めるつもりで、死ぬまで働くからね」と約束している。ここで働いて15年、1日たりとも飽きたことはなく、日々の変化を楽しんでいるという。

「私は早番で入ることが多いのですが、たまに夜遅い時間に客として来ると、窓の外の景色がキラキラと輝いていて、店内の空気も違う。『めっちゃいい子も働いてるし、いい店だなー』って思うんです(笑)」

西田さんは愛着を持ってそう語る。ぬくもりのあるサービスとおいしいコーヒー、こだわりの古書が三拍子揃ったこの店は、新宿で24時間、昭和から令和の今も変わらず多くの客を懐深く迎え入れ続けている。

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店長の西田恵美子さん

大切な一冊

『妊娠カレンダー』(著/小川洋子)

妊娠を控えた姉と妹の〈わたし〉。妊娠によって翻弄(ほんろう)される姉を観察しながら、〈わたし〉の意識は次第に、その体内に宿る胎児へと向けられていく。染色体を破壊すると知りながら、薬品にまみれたグレープフルーツジャムを作る〈わたし〉、それを食べ続ける姉。妊娠をきっかけとした心理と生理のゆらぎを描いた芥川賞受賞作。

「これは店の本棚にある本ではなく、私物です。中学か高校の頃、小川さんに興味を持ち、一番はじめに読んだのがこの小説でした。他の作品も印象的なんですけど、いまだにくりかえし思い出してしまうのが、グレープフルーツのジャムを作る場面。ここだけ読み返すことも多いのですが、何なんでしょうね。ちょっとだけ狂気を孕(はら)んだ妹と何も知らない姉。生まれてきた子どもがどうなるかも描かれておらず、いまだに心に引きずっている作品です」(副店長の八木橋千世さん)

〈141〉500冊の本と極上コーヒーを24時間楽しめる「珈琲貴族エジンバラ」

珈琲貴族エジンバラ
東京都新宿区新宿3-2-4 新宿M&Eスクエアビル2F
https://edinburgh.jp/

>>写真の続きは画面下のギャラリーをご覧ください

(写真?山本倫子)

>>book cafeまとめ読み

PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター?デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター?編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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