川島蓉子 コロナ後の暮らし

デザイナー?皆川明さん、コロナ禍が気づかせる「モノづくりの本質」

新型コロナウイルスによる自粛生活は、私たちの生活をどう変えたのか? 「withコロナ時代」を経て、その先にある暮らしにはどんな価値観が定着していくのだろうか? ifs未来研究所所長でジャーナリストの川島蓉子さんが、各界の気になる人たちに問いかける連続対談。混沌(こんとん)とした世界にあって、私たちが自分らしく、さらにより良く生きるためのヒントとなる対談をお届けします。

第4回のゲストは、「ミナ ペルホネン」のデザイナー、皆川明さん。デザイナーとして、企業経営者として、皆川さんは自粛生活とどう向かい合ったのでしょうか? 東京?白金台のアトリエでお話をうかがいました。
(構成?坂口さゆり、撮影?篠塚ようこ)

 

デザイナー?皆川明さん、コロナ禍が気づかせる「モノづくりの本質」
デザイナー?皆川明さん、コロナ禍が気づかせる「モノづくりの本質」

デザイナー?皆川明さん、コロナ禍が気づかせる「モノづくりの本質」

川島蓉子(かわしま?ようこ)

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。

 

デザイナー?皆川明さん、コロナ禍が気づかせる「モノづくりの本質」

皆川明(みながわ?あきら)

1967年生まれ。95年に「ミナ(2003年よりミナ ペルホネン)」を設立。ハンドドローイングを主とする手作業の図案によるテキスタイルデザインを中心に、衣服をはじめ、家具や器、店舗や宿の空間ディレクションなど、日常に寄り添うデザイン活動を行っている。デンマーク「クヴァドラ」、スウェーデン「クリッパン」などのテキスタイルブランド、イタリアの陶磁器ブランド「リチャードジノリ」へのデザイン提供、新聞?雑誌の挿画なども手掛ける。

 

社員が満足できるように

川島蓉子さん(以下、川島) 新型コロナウイルスによる自粛で、皆川さんが一番変わったことは何ですか?

皆川明さん(以下、皆川) 世の流れと同じで、在宅勤務が基本になったことです。幸い2020-21秋冬展示会直後だったタイミングもあって、僕たちにとってはとてもスムーズで、何も問題がありませんでした。「在宅でも仕事できるね」と確認できたことはとてもよかったと思っています。

デザイナーとしての自分の仕事も、過去にないほどスムーズに制作ができました。自宅で作業していますが、自分のペースで集中してクリエーションができたことは大きな成果だと思います。

デザイナー?皆川明さん、コロナ禍が気づかせる「モノづくりの本質」

川島 社員が働き方を選べるのはとてもよいことですね。

皆川 実際、今回の自粛期間中に在宅を選んだ社員がいました。子どもの学校が休みになってしまったためですが、通勤の2時間がなくなった分、集中してたくさん仕事ができてよかったと言っていました。彼女はそれまで時短勤務だったのですが、通勤の2時間分を足してフルタイム勤務に戻したんです。すると給料が上がるし、出勤しなくていいし、子どもの面倒も見られる。効率も上がった。在宅勤務にまつわる社内の決まりごとはまだ整えきれていませんが、誰もがベストな選択ができるように、いま検討しているところです。

川島 経営者として、自粛で困ったことは?

皆川 店舗を休業しなければならないということでしたね。経営者として考えたのは、自粛期間が、一体どこまで続くかということです。店舗休業をどこまで長引かせるのか、体力的にどこまで続けられ、どこから難しくなるのか。その上で社員たちにどのように補償していくか。見極める判断材料がないのが難しかったです。そこで僕は、まずは社員全員にできる限りの最大の補償をし、会社が継続しなくなるだろうタイミングが来たら社員に告知しようと判断したんです。

デザイナー?皆川明さん、コロナ禍が気づかせる「モノづくりの本質」

川島 社員の気持ちが社長以上に萎(な)えてしまった企業は多くあります。社長が言葉で安心させてくれるのは大きいですね。

皆川 法的に休業手当は6割以上とされていますが、僕たちは100%にしてみようと決めたんです。「6割以上」で会社が存続する期間が長くなるのがいいのか。100%にして短くなってもいいのか。どちらを選択すべきか悩みました。

川島 100%にしたのは勘ですか?

皆川 勘です。お互いの満足はどちらにあるか。「会社は潰れるけど、100%補償してもらった」というのと、「6割以上だったから少しは延命したけど『潰れます』って。やっぱり相当きつかったから、会社もそこそこしか補償してくれなかったよね」というのとでは、かなり満足度は違うのではないかと。

川島 自粛期間中の売り上げはどうでしたか?

皆川 休業している間もオンラインショップだけは動かしていたので、結果としては休業している店舗分をリカバーできたんです。4月の1カ月分だけは前年よりも落としましたが、5、6月はよかったです。顧客の方々の、僕たちを応援しようという気持ちも感じてありがたかったですね。それがあったから通販が動いたといえると思います。

デザイナー?皆川明さん、コロナ禍が気づかせる「モノづくりの本質」

自粛期間中に始めた、新たな取り組み

川島 ウェブでの工夫もあったそうですね。

皆川 単にモノを売るための工夫というよりも、みなさんにブランドを知ってもらう期間にしようと考えました。「Textile Diary」と名付け、4月1日から毎日1点ずつ、僕たちが持っているおよそ800種の図案を発信しています。デザインそのものの説明ではなく、たとえば僕の場合だったら、そのときどんな気持ちで描いていたかとか、そのときのアトリエはどんな状況だったかとか、こんな記憶から生まれているとか……。

デザインをしている時の物語、記憶を日記のように書いて、インスタグラムホームページに掲載しはじめたのです。

デザイナー?皆川明さん、コロナ禍が気づかせる「モノづくりの本質」

4月1日から始まった「Textile Diary」(ミナ ペルホネンのホームページ)

川島 どなたが思い付いたのですか? 毎日アップするのは大変だと思うのですが。

皆川 僕自身がやってみたいと思いました。自分たちにそれなりの負荷をかけてやっていかないと、こうした特別な期間を乗り越える力にならないのではないかと思ったからです。いつコロナが収束するのか分かりませんが、収束してもしなくても、少なくとも3年分くらいのデザインはあるので、これからも発信し続けたいと思っています。

モノから生まれる、大事な記憶

川島 手応えはありましたか。

皆川 コメントを多くいただいています。「私もこのデザインを持っていて、それはこういう時に……」と、今度はその方の思い出話が寄せられる。僕たちミナ ペルホネンではモノを売るというより、「モノから生まれる記憶を作ろう」と考えています。そういう意味でも、モノを作る記憶をお伝えしていく「Textile Diary」は、自然なコミュニケーションなのです。

デザイナー?皆川明さん、コロナ禍が気づかせる「モノづくりの本質」

川島 皆川さんにとって「記憶」はとても大事な要素ですが、そのルーツはどこにあるのですか。

皆川 ルーツはわからないんですね。でも、ミナ ペルホネンでモノを作ってきた結果、考えたことがあります。人は、何を根拠に「良いモノだ」と言うのだろうか?と。買う時に「良いデザインだね」というのは、そのモノの物質的な美しさや機能性だと思います。でも、「これは私の好きなモノ」と言う時は、その人にとってそこに大事な記憶が収まっているからだろうなと思うんです。いずれ物質は記憶に変わって評価されるということを、自分自身がモノを作りながら気付きました。

川島 コロナの自粛生活で、私は家にある服を整理したのですが、おっしゃる通り、服に記憶がないものは捨てられても、あるものは捨てられないんですよ。

皆川 そうなんです。「このギャザーがいいね」ということで捨てられないのではなく、あの時着ていたものだから捨てられない。大事だから取っておこう、と。物質的な価値から離れてしまうんですよ。

川島 モノに記憶が染み込んでいるんですよね。

皆川 そうなんです。僕は人がモノをどういう感情で見ているのかとても関心があります。

川島 人の気持ちはコロナがあっても終わっても、多分変わらないだろうし、この自粛生活でもっと記憶を大事にしようと思った人は多かった気がするんですよね。お金のためよりも記憶のため、というような。

皆川 コロナによって、そういった人の気持ちは多少でも濾過(ろか)されるというか、純粋になる気はします。本質に気づくことによって、そことずれたモノづくりや行動は見直されるのではないでしょうか。

デザイナー?皆川明さん、コロナ禍が気づかせる「モノづくりの本質」

川島 モノづくりの人たちがこれからもっとやっていったほうが良いことは何だと思われますか。

皆川 製造業はモノを作ることに重きを置いていたのですが、製造業はまた、それに携わる人の暮らしも作るわけです。おかしな話に聞こえるかもしれませんが、モノを作りながらその人に関わる、たとえば、トヨタだったら車の製造に関わる何十万人もの社員の生活も生産するわけです。だからこそ、大きな企業の役割や責任は大きい。モノを作るために人がいるのではなくて、人の暮らしを作るためにモノがあると考えると、両方の価値が等しくなります。

川島 最後に、今年2月16日まで東京都現代美術館で行われ、現在神戸の兵庫県立美術館で開催中の皆川さんの展覧展「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」についておうかがいします。

皆川 東京はコロナ感染拡大のギリギリ直前に終わり、神戸はいったん社会活動を再開しようというタイミングに始まりました。そういう点で、同じものを違う視点で見ることができる、つまり、内容が同じであるからこそ見る側が変化したことを自覚することになれば、それは興味深いのではないかと思います。

川島 東京は大変な盛況でした。神戸でどんな反響になるか、楽しみにしています。

『HELLO!! WORK 僕らの仕事のつくりかた、つづきかた。』(皆川明/川島蓉子?著、出版社:リトルモア)が8月末に刊行予定です。

次回、川島蓉子さんがゲストに迎えるのは、株式会社ONE?GLOCALの鎌田由美子社長です。どうぞお楽しみに!

「コロナ後の暮らしがどうなるかは、その人次第」 レオス?キャピタルワークス 藤野英人社長

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コロナ禍が地域活性のチャンスに ONE?GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん

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