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あの子への優越感と嫉妬。くだらない、でも精いっぱいだった「私」

あの子への優越感と嫉妬。くだらない、でも精いっぱいだった「私」

撮影/馬場磨貴

「Sさんの再訪」(『サキの忘れ物』収録)

犯人さがしだとかアリバイ崩しだとか心理サスペンスと銘打っているものとは別に、ふつうの文学の中に、謎解きっぽいテイストを見つけることがある。ミステリー好きの私としては得した気分。津村記久子さんの『サキの忘れ物』収録の「Sさんの再訪」を紹介しよう。

「私」の元に大学の時の友人?佐川さんから、離婚してこの県に戻ってきた、一度会いませんか、というはがきが来る。学生時代のグループは佐川さん、白間さん、砂井さん、瀬藤さん、園田さんと自分の6人。それぞれの結婚式以来誰とも会っていない。仲が悪くなったのではなく、社会に出る、家族ができるなどの中で、自然と疎遠になっていった感じだ。

25年前の5人の女友達。名前と顔はさすがに覚えているが、あまりに一緒にいて、ごくふつうのテレビ、勉強、おしゃれ、男の子の話で盛り上がっていたので、誰がどんな人かが思い出せない。同じ大学だった夫に聞こうかと思ったがやめておくことにして、主人公は当時の日記を広げ、がくぜんとする。

すべての人がイニシャルで書かれていたのだ。そしてグループは全員「S」。

読み返しや記録のためではなく、相当自分勝手なことを心の澱(おり)のたまるままにつづったので、その日誰のことかわかれば十分だったのだろう、と「私」は思う。

あの子への優越感と嫉妬。くだらない、でも精いっぱいだった「私」

『サキの忘れ物』津村記久子 著 新潮社 1,400円+税

だが、Y先輩にもてあそばれたと嘆くSさん、同性異性関わらず取り囲まれているSさん、美人だが頭はよくない、でも自分よりいい企業の内定をもらったSさん、グループ内でいちばん容姿はよくないけど、いちばんいい就職先に内定が決まったSさんなどが登場し、それらに対して「ちょっと優しくされてのぼせ上がって」とか、「嫉妬を禁じ得ない」「本当は悔しい」とか「彼女は結婚できないだろうから、それがいいだろう」などと書かれている。今読むととるにたらない、くだらない、でもあの時は精いっぱいの、22歳の女ごころ。

さあ「私」はゴマンと出て来る「S」の中から近日中に再会する佐川さんを特定できるのか。そして、強い言葉を言ったあとに「でも心配」と優しさを見せ、その後「私」を無視した「S」とは……。

ミステリーとして一級品なうえに、「書き手と読み手の頭脳対決!」は狙っていないので、ラストの「ああ、そうだったんだ」がすんなりしみる。

ほかに、高校を中退した女の子が勤務する喫茶店の忘れ物や、河川敷にあらわれた珍しい動物、隣のビルの入り口はどこにあるのか気になってしょうがない男など、その先はどうなるの?と読者の心をそそる全9話。地球規模の大心配が依然続く中、一作読むと心が整い、自分の世界がちょっと正しい方向に進んだような――そんな感覚を味わえる短編集です。

(文?間室道子)

短編


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